今回の記事では、抗体(免疫グロブリン)について、解説していきたいと思います。
まず、抗体とは、免疫グロブリンの内、分泌されて液性免疫のエフェクター機能を担うものです。
では、そもそも免疫グロブリンとは何でしょう。
免疫グロブリン(immunoglobulin, Ig)とは、免疫系において重要な役割を果たすタンパク質の一種であり、体内に侵入した病原体や異物に対する防御反応を担います。これらは血漿中に存在し、抗体としても知られ、病原体を特異的に認識し、結合することで、感染防御や病原体の除去に寄与します。
抗体として機能する免疫グロブリンは、特異的に抗原(病原体の一部など)を認識し結合する部位を持ち、これにより病原体の中和、オプソニン化、補体活性化などのさまざまな免疫効果を発揮します。
- 中和
多くの病原体は、宿主細胞表面の受容体に結合して細胞に侵入することで、感染します。
この時、抗体がウイルスや毒素に結合し、それらが細胞に侵入したり作用したりするのを防ぐメカニズムのことを中和と呼びます。特にIgGとIgAが中和に関与します。ウイルス感染の場合、抗体がウイルスのスパイクタンパク質などに結合することで、細胞受容体への結合を阻害し、細胞内への侵入をブロックします。
例えば、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質に結合する中和抗体は記憶に新しのではないでしょうか。ワクチン接種により生成される抗体の多くも中和抗体であり、ウイルスの感染力を無効化する重要な役割を果たしています。 - オプソニン化
オプソニン化とは、一言でいうと、”味付け”です。
オプソニン化では、抗体(主にIgG)が病原体の表面に結合し、貪食細胞(マクロファージや好中球など)が病原体を効率よく取り込みやすくします。この際、貪食細胞は抗体のFc領域にある特定の受容体(Fc受容体)を認識し、病原体を取り込んで消化します。貪食細胞が、病原体というご飯を食べやすくする、そのための”味付け”ということなんですね。 - 補体活性化
補体は免疫系の一部であり、病原体の溶解や貪食を促進するために働きます。特にIgMとIgGが補体活性化に関与します。補体が活性化されると、膜侵襲複合体(MAC)というマリオの土管みたいな複合体が形成され、病原体の細胞膜を直接破壊するほか、貪食細胞による排除が促進されます。ただし、このような補体の殺菌作用は、グラム陽性菌のように厚いペプチドグリカン層を有した細菌には無効であるとされています。 - 抗体依存性細胞障害(ADCC)による排除
抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、特にIgGが関与する免疫機構です。
IgGがウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞の表面抗原に結合すると、NK細胞がIgGのFc領域を介して結合し、細胞毒性を発揮するための化学物質(パーフォリンやグランザイム)を放出して、標的細胞を破壊します。補体活性化がB細胞と補体との連携だとすれば、ADCCはB細胞とNK細胞との夢の共演と呼べるでしょう。
このように、感染防御において重要な役割を果たす抗体ですが、上記の説明でも出てきたように、一口に抗体といっても、いくつかの種類(クラス)があり、主にIgG、IgA、IgM、IgE、IgDの5つのクラスが存在しています。これらはそれぞれ異なる構造と機能を持ち、異なる免疫応答や組織部位に特化しています。
以下の表にまとめていきたいと思います。
アイソタイプ | 血清中半減期 | 分泌型 | 機能 |
IgM | 5日 | 5量体 | 一次応答の初期に産生。補体の固定。 |
IgD | 3日 | ー | ほとんど分泌されないものの B細胞の表面受容体としての機能はあり。 |
IgG | 23日 | 単量体 | 二次応答および一次応答の主要な抗体。 加えて、胎盤を通じて胎児免疫に働く。 |
IgA | 6日 | 単量体 2量体 | 粘膜免疫の主要な抗体。 |
IgE | 2日 | 単量体 | マスト細胞のFc受容体に結合し、 即時型のアレルギーに関与する |
何らかの病原体が体内に感染・侵入してきて、それに対する応答を行う。こういった、ザ・抗体といった働きをするのは主にIgMとIgGとされています。また、消化管や呼吸器といった、外界と直接接する部位は最も病原体が侵入しやすい部位であるため、感染防御には、粘膜免疫系が重要な働きを担っています。そういった粘膜面での局所的な免疫防御にはIgAが働くとされています。
IgEはアレルギーに関わるアイソタイプと理解しておけば十分でしょう。IgDについてはまだ詳しくは分かっていないのが現状とされています。
加えて、半減期の順番については、ゴロを作ってますので、参照したい方はどうぞ。
それから皆さん、一次応答、二次応答というものをご存じでしょうか。
免疫系が初めて病原体に接触した時、一次応答と呼ばれる免疫応答が行われます。一次応答では、初めての病原体に対する反応のため、抗体産生までに少し時間がかかります(約5〜7日程度)。
最初に産生される抗体はIgMです。これは5量体として構成され、複数の抗原結合部位を持つため、迅速な補体の活性化が可能になり、急速に病原体を補足できます。
IgMはB細胞の表面受容体として機能しおり、抗原との最初の接触で分泌される抗体もIgMであることが、免疫学的な発生学の観点から支持されています。
一次応答は新しい病原体に対して免疫システムが初めて適応するプロセスであり、感染に対する基礎的な防御を形成します。これにより、記憶B細胞が形成され、同じ病原体への迅速な反応が可能になります。
続く二次応答では、免疫系は記憶B細胞によって迅速(2〜3日程度)かつ強力に反応し、主にIgGが大量に産生されます。IgGは血清中で最も豊富な免疫グロブリンで、長い半減期を持ち、持続的な防御に寄与します。
IgGは病原体の中和やオプソニン化、補体活性化など多様な機能を持つため、効果的な二次応答を支えます。
加えて、IgGには異なるサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)があり、異なる種類の病原体に対して効果的に働く特性を持っています。たとえば、IgG1とIgG3はオプソニン化による貪食細胞の活性化が得意とされています。
二次応答は、以前に遭遇した病原体に対する「学習された」免疫応答であり、感染を迅速に制御できるため、症状が軽減されることが多いです。これはワクチンの効果にも関連しており、ワクチン接種によってあらかじめ記憶B細胞が作られることで、感染時に強力な二次応答を引き起こします。
それから、診断と治療における抗体の応用についても触れていきます。
抗体を利用した診断方法として、酵素免疫測定法(ELISA)や免疫蛍光法がよく使われます。これらの方法では、特定の抗体を用いて病原体や特定の分子を検出し、感染症や自己免疫疾患の診断に役立てています。
ELISAは特定の抗体が抗原に結合する性質を利用し、抗原の有無や量を測定します。例えば、ウイルスや細菌の感染を診断するために、血清中の抗体や抗原をELISAで検出することが多いです。
治療についてですが、モノクローナル抗体療法は、がん、自己免疫疾患、感染症の治療に広く応用されています。モノクローナル抗体は特定の抗原に対して高い特異性を持ち、標的細胞を選択的に攻撃することができます。
リツキシマブやトラスツズマブなどの抗体薬が代表例で、がん細胞の特定の抗原に結合し、ADCCや補体活性化などを介してがん細胞を破壊します。
今回は、抗体についてみていきました。抗体は私たちの体内で病原体と戦い、健康を守るために重要な役割を担っています。その働きは、単なる防御にとどまらず、現代医療の分野でも診断や治療に応用され、より多くの命を救うために活用されています。
私たちの体内で繰り広げられる抗体の精密な働きを知ることで、免疫システムの素晴らしさに気づくとともに、ワクチンや抗体治療の意義を理解し、健康管理への意識が高まることを願っています。