心音(正常心音)にはⅠ音とⅡ音とがある。このうち、Ⅱ音は動脈弁(大動脈弁、肺動脈弁)の閉鎖により発生し、大動脈成分(ⅡA)と肺動脈成分(Ⅱp)からなる。この記事では生理的分裂と、病的分裂、固定性分裂、奇異性分裂について触れています。
生理的分裂
生理的分裂は主に健常者でみられる。息を吸うと、胸腔内圧が下がり静脈還流量が増加する。すると右室から肺動脈へ流れ出る血液量も増加し、駆出時間の延長により肺動脈弁の閉鎖が遅れる。
病的分裂
病的分裂にはⅡAが早まる場合とⅡpが遅くなる場合とがある。前者には、僧帽弁閉鎖不全症と心室中隔欠損症が、後者には、肺動脈弁狭窄症と右脚ブロックとがある。
僧帽弁狭窄症では左室から左房へと、心室中隔欠損症では左室から右室へと血液が逃げ出し、左室収縮時間が短縮するため大動脈弁の閉鎖が早まる。
僧帽弁狭窄症 心室中隔欠損症
Ⅱpが遅くなる場合ではどうだろうか。肺動脈弁狭窄症では、右室から肺動脈への駆出がしづらく、右脚ブロックでは右室の収縮が遅れるため、肺動脈弁の閉鎖も遅くなり、 分裂が生じる。
肺動脈弁狭窄症 右脚ブロック
固定性分裂
固定性分裂は心房中隔欠損症で見られる。健常者であっても吸気により分裂が生じる(生理的分裂)。しかしながら、この心房中隔欠損症では、ⅡA~Ⅱpの間隔が呼吸によらず一定である固定性分裂がみられる。呼吸によって変わらないという点が固定性とよばれる所以だろう。
心房中隔欠損症では、左から右へのシャントが存在するため、右心房・右心室への血流が常に増加している。呼気時には右房への静脈還流量が減少する一方、肺静脈から左房への還流量は増加する(左ー右シャントは増強する)。翻って、吸気時には右房への静脈還流量が増加する一方、肺静脈から左房への還流は減少する(左ー右シャントは減弱する)。すなわち、呼気、吸気を通じて右房・右室への血流量は変わらないため、分裂も一定である。
つまり、ASDでは、呼吸による右心系への血流変動が打ち消されるため、分裂が固定化されるというメカニズムである。
呼気時 吸気時
奇異性分裂
最後に奇異性分裂について。これまで触れてきた分裂は全て、ⅡA、Ⅱpの順であった。しかし、この奇異性分裂はⅡp、ⅡAと逆転しているという特徴がある。疾患としては、大動脈弁狭窄症と左脚ブロックがこれにあたる。ところで、勘の鋭い方はお気づきかもしれないが、本質的な病態として、Ⅱpが遅くなる病的分裂とちょうど相似の関係にある。すなわち、奇異性分裂ではⅡAが、病的分裂ではⅡpが、それぞれ遅くなっており、順序が変わるものを奇異性分裂と呼んでいる。
大動脈弁狭窄症 左脚ブロック
今回触れる分裂は以上になります。僕自身、「固定性分裂なら心房中隔欠損症!」くらいの認識だったので、もっと病態を理解したいなと思い、この記事を書きました。全体として、血液の流れを理解できれば、そこまで難しくはないのかと感じました。